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福岡地方裁判所 昭和48年(ワ)639号 判決

原告

有限会社グリーンレンタカー

被告

大石裕充

ほか一名

主文

一  被告大石裕充は原告に対し金四〇万五〇九五円及びうち金三五万五〇九五円に対する昭和四八年二月一二日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告徳本純一は原告に対し、金三五万五〇九五円及びこれに対する昭和四八年二月一二日から支払ずみまで、年五分の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は五分しその三を被告等のその余を原告の各負担とする。

五  この判決の原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

「1 被告徳本純一は、原告に対し、金七五万九六〇〇円及びうち金六五万九六〇〇円に対する昭和四八年二月一二日以降右完済に至るまで日歩一〇銭の割合による金員を支払え。

2 被告大石裕充は、原告に対し、金七三万五六〇〇円及びうち金六三万五六〇〇円に対する昭和四八年二月一二日以降右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

「1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、自動車の賃貸等を業とする会社であるが、昭和四八年二月一〇日被告徳本純一に対し、原告所有の普通乗用自動車サニー・クーペ一台(以下本件車両という)を、

(1) 貸与期間 同日午後五時から翌一一日午前九時まで

(2) 無届で時間延長した場合には、二四時間を限度に一時間当り一〇〇〇円の違約金を支払う。

(3) 本契約に基く金銭債務の履行を怠つたときは日歩一〇銭の遅延損害金を支払う。

等の約定で貸渡した。

2  被告大石裕充は、昭和四八年二月一一日午前四時頃、被告徳本より右自動車を借受けて運転中、福岡県田川郡田川バイパス国道上において訴外岩丸産業株式会社所有の自動車と衝突し、原告所有の前記自動車を損壊した。

3  帰責事由

(1) 被告徳本は、自らの責に帰すべき事由により、原告所有車を損壊したので債務不履行に基づく損害賠償義務がある。

(2) 被告大石は、原告所有の自動車を運転するに際して、赤信号を無視して交差点に進入したため衝突事故を起して、原告所有の自動車を損壊したので、民法七〇九条により不法行為者として原告の損害を賠償する義務がある。

4  損害

(一) 代替車購入費 四五万円

事故車は、修理不可能であつたので、代替車を購入するために前期金額を要した。

(二) クレーン車使用料 二万五〇〇〇円

(三) 休車損害 一六万〇六〇〇円

昭和四八年二月一二日から同年三月三一日まで代替車購入のために要した四八日間、事故車を使用して営業できなかつたことによる損害で、日曜祭日七日間一日当り四二〇〇円、平日四一日間一日当り三二〇〇円の割合による金員。

(四) 無届延長の違約金 二万四〇〇〇円

(但し、契約当事者たる被告徳本のみに対して)

(五) 弁護士費用 一〇万円

原告は被告らが任意の賠償に応じないので本訴の提起を原告訴訟代理人に委任し、着手金として五万円支払い、且つ勝訴額の一割に相当する報酬金の支払いを約したので、右着手金五万円及び報酬金のうち五万円計一〇万円。

よつて、被告徳本に対しては、金七五万九六〇〇円及び弁護士費用を除いたうち金六五万九六〇〇円に対する昭和四八年二月一二日から完済に至るまで約定による日歩一〇銭の割合による遅延損害金の支払いを求め、被告大石に対しては、金七三万五六〇〇円及び弁護士費用を除いたうち金六三万五六〇〇円に対する昭和四八年二月一二日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する被告らの答弁及び抗弁

1  請求原因1ないし3の事実は認める。

2  同4の事実のうち(四)の無届延長の事実は否認し、その余の事実については不知、損害額については争う。

3  本件車両の賃貸借契約者は被告ら両名と解すべきところ、原告は、本件自動車貸与の際、被告等から保険補償料名目で金八〇〇円を徴収しており、事故前に原告が自動車保険を掛けており、これにより被告等が本件自動車の使用に際して本件自動車を破損させた場合右自動車保険金より損害を填補し被告らにこれを請求しない旨の合意が成立したものであり、仮りに原告が右自動車につき自動車保険に加入していなかつたとしても右名目の金員を徴収している以上保険金額の範囲内においては、損害賠償義務を免責する旨の意思表示をなしたものというべきであり、被告等に対して本件損害賠償を求めることは禁反言の法理に反し許されない。

三  被告の抗弁(右二、3)に対する原告の答弁

原告が被告徳本から保険補償料名目で金八〇〇円を受領している事実は認めるが、これにより原被告間に被告ら主張の合意が成立し、或いは原告が被告らに免責の意思表示をしたことは否認する。右は借受人に過失のない事故による車の損害について自社保険の目的で徴収したものであり、これについては被告らも了承している。

第三証拠関係〔略〕

理由

一  原告の請求原因事実1ないし3についてはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで被告の抗弁について判断する。

1  原告が本件車両を賃貸する際保険補償料名目で金八〇〇円を受領していることは当事者間に争いがない。

2  〔証拠略〕によると本件車両については借受名義人は被告徳本がなり、借受人として署名したこと、被告大石は当日運転免許証を携帯していなかつたこと、同被告については何ら住所、氏名等身分の確認はなされなかつたこと、福岡市内の被告らの下宿までは被告徳本が運転して下車し、そこから大分まで被告大石のみが乗車運転しての途中・日田市付近で同被告が赤信号を無視して交差点に進入したため交差点内において信号に従つて来た貨物自動車に衝突し本件車両が大破したことが認められ、右認定に反する証拠はなく右認定の事実によれば、本件車両について原告が運転免許証も所持していない者で借受名義人以外の者と車両賃貸契約を締結したものとはとうてい考えることができず、本件車両の賃貸契約は原告と被告徳本の間になされているものであり、そうすると福岡市内の被告らの下宿から大分県内の事故現場までの被告大石のみの乗車運転は契約当事者外の第三者による運転であり、右第三者が信号無視の重過失により車両の物損事故を発生させたというべきものである。

3  〔証拠略〕を総合すると本件貸借契約書の裏面の貸渡約款には「借受人は自動車を第三者に運転させてはならないこと、借受人は借受期間中に自動車に損傷を与えた場合故意又は過失の有無を問わず、その修理実費および別に定める休車補償料を負担すること、原告の発行するパンフレツト、料金表、原告の営業所における掲示事項等の具体的指示に従うこと」を内容とする記載が含まれ、契約時に手交したパンフレツトには「事故補償制度、自車両保償のみ二四時間まで八〇〇円が事故補償分担金を納めても適用を除外される場合がありますので特に御注意下さい」との記載が含まれ、これを受けて原告事務所の受付窓口の上部には現在は「保険は対人のみ五〇〇万円(自賠責)、下記に該当する場合には修理代は全額負担となります(契約者外の運転、交通法規を守らずに起した事故、その他略)」との内容の記載のある掲示がなされているが、本件契約当時も右に類する内容の掲示がなされていたこと、右の約款、パンフレツト、掲示の各記載については当然借受人側においても了知することができたものであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はなく右各事実によれば、原告と借受人間においては右各記載事項を内容に含む契約が存在したものというべきである。

4  そうすると、右契約上の借受人とはいえない被告大石においては、原告と直接の契約関係にないのであるから、被告ら主張の免責の特約(合意)の成立、或いはその意思表示の存在を論ずる余地がないのみならず、右の約款、パンフレツト、掲示の各記載を綜合すると保険補償料名目の八〇〇円を支払つた一事をもつて契約に違反し、第三者に運転させその第三者が信号無視という重過失によつて物損事故を発生させた場合についても損害賠償請求はしないとの特約(合意)或いは意思表示があつたものとは到底認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、この点に関する被告の抗弁は理由がない。

三  そこで原告の損害額について検討する。

1  代車購入費

〔証拠略〕によると本件車両は昭和四六年一二月二七日に代金七〇万円で購入し事故当時まで貸自動車業用に使用されたダツトサン、サニー、クーペ(総排気量一・四二リツトル)本件事故によりエンヂン、ボデー前、後、横、天井部に大きな損傷を受けたために、自動車修理工場で修理不能でありスクラツプ相当として三万五〇〇〇円で下取りさせ、代わりに事故車と同年式(昭和四六年式)のトヨタ、セリカを四八万五〇〇〇円で購入したことが認められるが、一方事故後右車両は修理され他に転売されていること、サニー、クーペよりもトヨタ、セリカの方が車格が高くやや高級車と考えられていること。当日の走行距離は後者が少かつたこと、右車両の事故時の価格を定率法により計算すればその償却率は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」により〇・五三六であるのでこれを本車の使用期間である一年一月に換算して計算する(七〇万円×一-〇・五五八)と三〇万九四〇〇円となるが、以上の諸点を考慮し、原告の右代替車買替に要した事故車の下取代金を除く四五万円の六割に当る二七万円をもつて本件事故と相当因果関係のある車両損害と認める。

2  クレーン車使用代

〔証拠略〕によると、本件事故車を事故現場付近の修理工場から福岡市美野島の修理工場までレツカー車により運搬しその代金二万五〇〇〇円を要したことが認められる。

3  休車損害

〔証拠略〕によると本件事故のため代替車を購入するまでに四八日間の期間があること、車両の賃貸料は平日三二〇〇円、日曜祭日四二〇〇円であつたことが認められるが一方実際の原告会社所有車両の稼働率は全体の七割ないし八割であること、代替車購入まで右の期間を要したのは原告側の特殊事情にも一因があつたこと、右休車期間中は車両修繕費、償却費等の経費の支出を免れることを考えると本件事故と相当因果関係のある休車損害は次の算式により六万〇〇九五円をもつて相当と判断する。(日曜分4200円×5+平日分3200円×25)×稼働率0.7×経費控除率0.85=60095

4  違約金

右に関して原告代表者本人は最初に事故の連絡を受けたのは事故の翌々日頃だつた旨供述するが、〔証拠略〕によると借受の翌日午前八時頃被告大石が原告会社に電話して事故の発生を報告し、これを同日午前九時頃被告徳本と鮎川が原告会社員より知らされた事実を認めることができ、右各証拠に照らし、原告代表者本人の右供述は直ちに採用することができず他に原告主張の無届時間延長の違約のあつたことを認めるに足る証拠はなく、原告の右を理由とする被告大石に対する違約金の請求は失当である。

5  弁護士費用

〔証拠略〕によると、被告大石が任意の弁済に応ぜず原告が弁護士たる原告訴訟代理人に本訴を委任したことは明らかであり、本訴の請求額、訴訟の難易、経過、認容額等一切の事情を考慮し、原告が被告大石の不法行為と相当因果関係にある弁護士費用としては五万円をもつて相当とする。

被告徳本に対する本訴請求は債務不履行を原因としているが債務不履行による損害賠償として弁護士費用の請求をなし得るのは請求を理由なく拒否し、応訴によつて抗争することが違法性を帯び社会通念上許容されずその支払拒絶否、応訴による不当抗争が不法行為として損害賠償請求の原因となり得る場合であると解するのを相当とするところ、〔証拠略〕によると、同被告は本訴提起まで原告より何らの請求を受けたことはなく、本訴に対する応訴について何ら不当抗争と目すべき事実を認めることはできず、原告の同被告に対する弁護士費用の請求については理由がないこととなる。

四  以上のとおり、被告大石については前記1ないし3、及び5の合計四〇万五〇九五円及びこのうち弁護士費用を除く三五万五〇九五円に対する不法行為の時の翌日たる主文記載の日から支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

被告徳本については前記1ないし三の支払義務があることは同様であるが更に原告は日歩一〇銭の約定遅延損害金の支払を求めており、「本契約に基く金銭債務の履行を怠つたとき」に右割合の遅延損害金を支払うべき約定がなされていることは当事者間に争いがないが、同被告に対する本訴請求として認容されるのは契約に基く金銭債務不履行を原因とする金員の支払ではなく、契約に基く車両の賃借時における現状での返還債務の履行不能を原因とするものであり、右遅延損害金の約定は及ばず、履行不能により損害賠償支払義務発生の翌日たる主文記載の日から支払済まで民法所定年五分の割合においてのみ認容すべきものである。

よつて、原告の被告らに対する本訴請求は右の限度で理由があるので正当として認容し、その余の部分を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松村恒)

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